留学者インタビュー

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自分の中の「知りたい」を追ってフィリピンへ。国際保健の現場で「知らない」ということを、知る。 東北大学医学部医学科4年生 内村彩加

医学部医学科4年、内村彩加です。
基礎修練中では微生物学教室に所属していました。私は前に別の大学に通っていて、社会科学系の勉強していたんですが、国際保健に興味がありまして。この研究室で国際保健について学べたらいいなと思って選択しました。

国際保健というと、公衆衛生であるとか疫学、医学、看護学とか……「国際レベルでの健康問題について研究する分野」といった理解で良いでしょうか?

そうですね。大体そんなところだと思います。
医学的・疫学的なことだけじゃなくて、政治学や社会学、気候風土に関する分野までいろいろと関わってきますね。
こうした分野の先生方は発展途上国でどういうふうに研究しているのか知りたいと思ったことと、いわゆる「途上国」というところに行ったことがなかったこと。そして、自身がコホート研究というのを行っているんですが、現地ではどのようにコホート研究を行っているのか知りたくて参加しました。

コホート研究
(cohort study)
分析学における手法のひとつ。ある特定の要因に直接晒された集団と、晒されていない集団を一定期間追跡し、研究対象となる疾病等の発生率を比較。要因と疾病発生の関連を調べる観察的研究のこと。

微生物学教室では小児の肺炎について研究しています。たとえばどういうウィルスだったら重症化するのかなど、重症化する要因となる条件(重症化因子)を研究しています。
コホート研究ではこの重症化因子を一定期間徹底して追いかけ、原因を探っていくことになります。
私が参加しているコホート研究では、対象の赤ちゃんが5歳になるまでずっと追いかけていくんです。毎日毎日「今日の症状はどうです」というものを書いてもらっていて、2週間に一度の割合でこの報告書をフィールドナースとよばれる人たちが取りに行きます。呼吸器症状(いわゆる風邪の症状)があれば7日以内にインフルエンザの粘膜検査のように検体を収集してくんです。

つまり、その子たちがどういう因子を持っていて、何が影響しているのかというのを統計的にも見ていくということですね?

そうです。対象になっているお子さんが2,000人くらいいて、それぞれのお子さんの家庭環境とか、どういう育てられ方をしてきたかとか、母乳で育てられたかどうかとか、アレルギーはあるのかとか。いろんな因子を調べています。

今回の留学ではそうしたコホート研究の現場をまさに見てきた、というわけですね。

そうなんです。……と、言いたいんですけれども、実は台風でコホート研究をやっている島に行くことができなかったんですよ。
それで、フィリピンには何ヶ所か「コホートサイト(cohort site)」と呼ばれているところがあって、今回は別の研究をしているコホートサイトに行くことができました。

なんと言いますか、ライブ感があるというか……。

本当に。行くはずだったフィリピンのビリラン島付近をちょうど台風の中心が通過するというので。
このビリラン島が呼吸器系のコホートサイトになっているんですが、今回は諦めてターラックという別の町にあるコホートサイトにおじゃますることにしました。こちらのコホートサイトでは呼吸器系の感染症ではなく、下痢症やデング熱といった別の感染症の調査を行っているところでした。
こうしたコホートサイトは世界中にあって、日本にもあるんですよ。

実際に行ってみて、どうでしたか?

言葉は基本的には英語が通じるので大きな問題にはなりませんでした。あちらに行っている間、一人だけ英語が全く話せない露天商の方がいらっしゃいましたけど、他はまったく大丈夫でした。
RITM(国立熱帯医学研究所)というところに行ったんですが、狂犬病にかかった患者さんの脳の切片などを見せていただきました。こういう疾患は日本では見ることができないのでとても勉強になりました。
それから、各コホートサイトから送られてきた検体のウィルス検査がどんなふうに行われているのかを聞いて、とても勉強になりました。

留学に行く前は、他の皆さんと同じように研究の準備を行われたと思うんですが、そこで得た知識や技術というのはどのように役立ちましたか?

私の場合は他の皆さんとは違って「実験」などの実務を行ったわけではないんですね。フィリピンに行ってからも、そこで行われている方法論を実際に見せていただいたという感じです。なので、出発前の2ヵ月で行った研修で得た技術がなにか役立ったとか、そういったものはありません。
それよりも、私にとっては「知りに行った」という感覚です。
向こうにいって、初体験のものを知って、「あ、私まだ何も知らないんだな」って。
「“知らない”ということを知った」という感じです。
これが一番の収穫だったように思います。

留学するとき、おそらく「知りたい」という感情が胸にあったと思います。
それは満たされましたか?

んー、どうでしょうね。……たぶん全然まだ満たされていないんだと思います。その、いまでも国際保健に携わりたいと思っているので、どんなふうに研究されているのか、また携わっている方がどういう感じで働いているのか“知りたい”と思って現地にいったんですけど。まだほんの入口程度だと思います。ほんのちょっと、ですね。
ちょっと伝わりにくいかもしれないんですが、結局「選択」って人それぞれだなって思いました。「コレをマネしたらいい」というものじゃなくて。自分で掴んでいくというか。
だからこれからもっと知らなければならないこと、感じなければならないことがたくさんあるってことを知って帰ってきました。

日常生活はどうでしたか?

快適といえば快適でした。フィリピンだからお腹コワしたといったこともありませんでしたし。
ご飯もまったく困りませんでした。RITMの近くにキレイなショッピングモールがあって、そこで大体300円くらいで十分美味しい物がたべられましたので特に不満もなく。
あ、シャワーはやっぱり水シャワーでした。これ現地に行かれた方は結構体験されると思うんですが、やっぱりかーと。まあ頑張れば気持ちいいっていえるかな?

た、大変でしたね。
そういうことも含めてたくさんの体験をして、いろんなことを「知る」きっかけになった留学だったのではないかと想像します。
では、こうしたチャンスとなった東北大学の留学システムについて内村さんはどう思いますか?

そうですね。「どんどん留学に行きなさい」っていう空気自体がもう魅力的だと思いますね。

そんなにイケイケどんどんなんですか?

年間30人くらい行くんじゃないでしょうか。
1学年130人くらいいて、その内の30人ですから結構な割合だと思いますよ。
そのなかでも資金的なサポートがあったりとか。ここまで積極的な医学部というのは、たぶん全国でも珍しいんじゃないでしょうか。
英語に関しても事前の教育体制もしっかりしています。「英語コミュニケーション能力開発コース」という講義があって、ネイティブスピーカーと実際に会話しながら英会話の基礎を学ぶ事ができるんです。こういう支援があるのも、留学をキャリア形成の場としてしっかり捉えているからだと思います。

東北大学医学部における基礎医学修練留学を行った学生数

東北大学は全国トップクラスの「積極的留学支援」を行う大学です。2007年から2015年までの間に3年生で研究留学を経験した学生は157人にも昇ります。特に、東北大学では見学だけの渡航は「留学」とせず、実際に大学や研究所で「最前線」に立ち、研究に取り組む経験をもって初めて「留学」としています。この経験が研究心と国際感覚を育み、多くの学生の未来に向けての糧となりますよう、東北大学医学部ではこれからも積極的な留学支援を行ってまいります。

■資料/基礎医学修練留学者数(東北大学医学部 2016年5月編)

こうしたチャンスをしっかりと利用してきたというわけですね。
帰国後は内村さんも報告会などに参加されたわけですね?

そうなんですよ。英語でやらなきゃいけないんですよ。しかも、後輩の皆さんはそれを聞かなきゃならないんです。最初は聞くのも割と大変なんですよね。
報告する側は基本的に英語の論文を読んで、調べてやるので英語でやるほうが楽です。日本語訳を考えなくてもいいので。

皆さんすごいですね。
そういう発表もあるけれど、海外に積極的に行ける環境や空気というのは「あ、いいな。すごいな」と思いますか?

思います思います。それが私の留学理由のひとつだったので。
私の研究室の留学期間は2週間だったんですが、制度的には最大で半年行けるんですよ。これだけ長い期間の留学ができるというのは、他にあまり例がないんじゃないでしょうか。
半年間アメリカに行けたら、すごいですよねぇ。お金の問題はありますけど。
ちなみに私がいったフィリピンだと、いただいた奨学金で渡航費から他の費用までまかなえちゃうんですよ。
今回留学することができて、向こうで本当にやろうと思うなら英語の他にタガログ語(英語とともにフィリピンの公用語となっている言語)を知っていた方がいいなと思いました。あ、でもフィールドワークをやるならワライワライ語という別の言語なので、タガログ語が喋れてもちょっと。

笑い笑い?

ワライワライ語。Waray-Warayと書きます。ビリラン島とかレイテ島なんかで使われている言葉で、コホート対象のお子さんやお母さんと話すならやっぱり知っておいた方がいいですよね。挨拶を知っているだけでも仲良くなれますし。国際保健や公衆衛生はやっぱり生活の中に入っていく医療。特にコホート研究だと患者さんのところに定期的に行ったり、患者さんの日常を調べる研究だとやっぱり知っておくに越したことはないと思います。
でも、日本人のスタッフでは多分誰もしらないと思いますけど。

内村さんが目指している国際保健や公衆衛生は、世界中で営まれているそれぞれの生活に入っていくものなんですね。

そうですね。私もそれを改めて感じてきました。

もし、後輩や高校生の皆さんの中に留学に興味を持っている方がいらっしゃったら、もうどんどん世界に出て行って欲しいと思います。うん。出よう。ね。
世界に出ると、これまたアリキタリなんですけど、自分と違う価値観に触れられたり、自分の常識が壊されたりするというか。そういう体験が大切なんだと思います。
特に医学部の学生は世界が決まりがちかなって思うんです。医学部の部活もあるし、研究室に詰めなきゃならないし。ひとつのキャンパスで事足りてしまうというか。

そういう日常だからこそ、できるだけ多くの違った価値観に触れるのは大切かな、って思います。 たとえば日本に来ている留学生と知り合ってみたりとかもいいかもしれないです。
そんな意味でも、今回の留学は私にとって大切な体験でしたし、これから挑戦しようとしている後輩の皆さんにとっても、きっと大きな意味のある体験になると思いますよ。東北大学医学部にいるなら、ぜひ留学制度は使ってみるべきだと思いますね。

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