先輩インタビュー

  • 中島敏
  • 紫原祐紀子
  • 佐々木啓寿

「脳細胞が奏でる、壮大なオーケストラ」東北大学大学院医学系研究科 生体システム生理学分野 助手(CREST研究員) 中島敏(なかじま・とし)

私は霊長類を使って脳のはたらきを研究しています。大脳の表面(皮質)は領野という単位に区分けされていて、それぞれ億単位の神経細胞をかかえています。各々の領野はユニークな働きをしますが、まだその一部しかわかっていません。これを明らかにするために、生きている神経細胞1個1個の活動を丹念に調べるのが私達の研究のしかたです。

話を分かりやすくするために、脳を地球に例えてみましょう。地球上に約100億人の住民(神経細胞)がおり、住んでいる国(領野)によって働きに個性があります。たとえば手足を動かすとか、音や光に反応するとか、あるいはもっと複雑な状況に反応するとかです。ヒトが周りの状況を理解して複雑な行動をスムーズにやりとげられるのは、各国の住民の連携プレーがあるからに他なりません。私達は、脳の住民達1人1人の個性と協力関係を知り、脳の各領野の働きと霊長類の行動との関連を明らかにしたいと思っています。

神経細胞は、かすかな電気シグナルを出して活動し、お互いに交信しています。日々の実験では、神経細胞(住民)にごく小さな電極(例えればマイクです)を近づけ、シグナルを読みとります。私はこれを「住民へのインタビュー」と呼んでいます。単語も文法も分からない別世界の言語に耳を傾けるようなものですから、解釈がむずかしく頭を抱える日もあります。ですが、時折、本当にすばらしい出会いが待っています。1個の細胞の活動と、動物の行動との間に、未知の規則を見出したときの喜びはたとえようがなく、鳥肌がたち浮足立つものです。たった1個の細胞の活動でさえ、人知を超越しているのです。

研究が進めば、足を失った人の義肢を、脳が考えた通りに機械的に動かすといったことが実現するかもしれません。ただ、私は具体的な応用を考える以上に楽しさや探究心に支えられて研究を続けています。研究は地道なものです。普通は退屈で飽きてしまう作業を根気よく続けるには、純粋に研究を愛する心がなければ難しいでしょう。

1個1個の細胞がしかるべきタイミングで連携して活動し、生きものの行動を司るさまは、まさに壮大なオーケストラの演奏を聴くようです。人知を超える神経細胞集団の合奏が、これを読んでくださっている皆さんの行動をも形作っているのです。

なかじまとしさん

なかじま・とし(略歴)

  • 2001年3月
    東北大学医学部卒
  • 2001年5月
    岩手県立北上病院(現・岩手県立中部病院)研修医
  • 2003年3月
    東北大学大学院医学系研究科 博士課程入学
  • 2007年3月
    東北大学大学院医学系研究科 博士課程学位取得修了
  • 2007年9月
    東北大学大学院医学系研究科 脳科学グローバルCOEフェロー
  • 2012年4月
    東北大学大学院医学系研究科 助手(CREST研究員)

「たくさんの患者を助けられる。」研究の意義を信じて 東北大学大学院医学系研究科 病理診断学分野 助教 柴原裕紀子(しばはら・ゆきこ)

幼少期に米国で過ごした経験があり、一時は法医学者になってFBI(米連邦捜査局)の捜査官になる夢を抱いていました。現在は病理診断医として東北大学病院に勤務する一方、乳がんについて研究しています。

最新のがん研究では、がんの浸潤や増殖、転移といった特性は、がん細胞とそれを取り巻く間質細胞などほかの細胞が相互に作用し合って引き起こされると考えられています。その環境を組織的に捉えて「腫瘍微小環境」と呼びます。

閉経した乳がんの患者さんに対して副作用が少なく、最初の選択肢となる治療薬があります。この薬は、腫瘍微小環境の中の間質細胞が関わっているとされ、がんの増殖源となるエストロゲンを抑制していますが、治療の途中で薬が効かなくなってくる場合があります。私は癌細胞と間質細胞が作用するメカニズムを解明することで、乳がんの耐性の機序を明らかにしたいと考えています。より有効な治療法や薬の開発につながれば、従来の治療法の効かない患者さんにも道が拓けます。

臨床医か基礎研究にも近い病理診断医のどちらに進むべきか迷い、同じく医師である父に相談したことがあります。父は「臨床は目の前にいる患者さんを助ける。基礎研究は成果が分かりづらいが、より多くの患者を助けられる」と話してくれました。その言葉を聞き、病理診断医の道を選びました。病理の分野は研究がどう臨床に反映されるか比較的分かりやすく、研究成果の発表が意欲につながります。

今は当初考えていた以上に深く研究に取り組んでいます。病理診断医としての仕事もあり、多忙ですが、充実した毎日です。研究で詰まったときには気持ちを切り替えて診断を進めます。時間を置くとまた研究に取り掛かる気持ちが湧きます。

臨床医学は基礎研究を積み上げたものです。基礎研究に支えられない臨床医学はありません。私も患者さんに還元できる研究の成果を出したいと願っています。東北大で土台を固めるつもりですが、いつかは海外で研究生活を送ることも考えています。FBI捜査官の夢もまだ完全には消えていないかもしれませんね。

しばはらゆきこさん

しばはら・ゆきこ(略歴)

  • 2006年3月
    神戸大学医学部卒
  • 2006年4月
    武蔵野赤十字病院で研修医として勤務
  • 2012年3月
    東北大学大学院医学系研究科医科学専攻 博士課程修了
  • 2012年4月
    東北大学医学系研究科医科学専攻 病理診断学分野 助教

ウィルスの研究から、ヒトの起源を想う 医学部医学科4年生 鈴木聡志(すずき・さとし)

1年生時の研究室訪問がきっかけで感染症に興味を持ち、研究室の先生にご指導いただくようになりました。感染症の原因となるウイルスは人間の進化を考える上でも非常に重要です。3年生の基礎医学研究のテーマにウイルスを選び、現在も研究を続けています。

私が研究しているEBウイルスはまれに慢性化することや、がんに関連することが知られています。そのEBウイルスに有効とされる薬が開発の途上にあります。この薬は、ウイルスの遺伝子が作り出すサイミジンカイネースというたんぱく質に反応し、効果を発揮します。ですが、病気の進行に伴ってその遺伝子は働かなくなります。原因として、DNA(デオキシリボ核酸)の鎖の中にある遺伝子を制御する「プロモーター」と呼ばれる領域が機能していないためではないかと仮説が立てられています。しかし、そのプロモーターがDNA鎖のどの部分に当たるのかすら、世界中の誰も特定できていません。私はその領域を確定させたいと考えています。プロモーターが機能しない原因を明らかにし、これらの基礎研究の成果から治療薬の効果を高めることが目的です。

4年生以上は臨床の講義や実習が中心になり、研究には放課後や長期休暇中の時間を充てます。ウイルスを増やし、その遺伝子がどんな働きをするのかひたすら読み込みます。地道な作業ですし、壁にぶつかることもあります。ですが、それ以上に面白さを感じます。

ウイルスは何十万年もの間、人間と共存し、その進化に合わせて自らを作り変えてきました。日々の研究から、ウイルスが長い年月を経てたどった変遷を知り、人間の起源や進化に思いを馳せることができます。基礎医学は生物学や地球科学に関心のある人にとっても十分にやりがいのある分野です。

感染症の流行は地球規模の問題です。ウイルスの研究を進めることは臨床や薬の開発に役立つでしょう。私は研究者の視点を持ち、患者さんの役に立つ臨床医になりたいと考えています。まずは大学院に進んで研究を続けるつもりです。

  • 研究留学について
  • 留学生インタビュー
  • 先輩インタビュー
  • サポートについて
  • 資料ダウンロード

PAGE TOP