留学者インタビュー

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アメリカ合衆国フロリダ。議論することの大切さを知った旅。 東北大学医学部医学科4年生 池田正俊

医学部医学科4年、池田正俊です。
今回の基礎医学修練留学では「生物化学分野」という分野に行かせていただきました。

では最初に「生物化学分野」がどんなものか、高校生にもわかるように教えてください。

それが一番難しいんですよ……。
まず、「ヒトのカラダの設計図」と言われているDNAというものがあります。
DNAは規則的に形成されているんですが、その中からたまに特異的な遺伝子が発現してきます。
その特異な遺伝子の発現を調節しているものが「転写因子」と呼ばれるタンパク質です。
この転写因子は何種類も存在しており、それぞれの転写因子によって特異遺伝子ひとつずつの発現する・しないが調節されています。
この転写因子と得意遺伝子の関係を観察し、明らかにしていくのが「生物化学分野」です。
もっと平たくいうと、お父さん・お母さんからもらった遺伝子の中から何が作られているのか、という研究分野、といったイメージです。

その生物化学分野の研究者のひとりとして留学されてきたと。

はい。アメリカのフロリダ州、フロリダ大学で2か月間勉強してきました。
今回の基礎医学修練留学では、これまで学んできた医学とは別に、この留学のための研修を受けて現地に行く仕組みになっています。私が選択した生物化学分野については3か月間集中的に研究してから現地に入りました。

3か月間で身につけた知識や技術。向こうではちゃんと通用しましたか?

実験の手法や技術というのは日本で身につけたものと変わりませんでした。
ただ、自分が一番キツいなと感じたのはやっぱり英語でした。
英会話もそれなりに勉強して行ったんですが、専門用語などがまったく出てこなくて。
ある程度知っている専門用語だったらまったく問題ないんですけどね。
私は元々血液の「赤血球の分化」に注目していたので、その分野の言葉なら大丈夫なんですよ。
でも、たとえば赤血球の分化がこういう疾患に繋がっていきますよ、となるとその疾患名が出てこなかったり。専門の分野をちょっとだけ外れると急に難しくなるんですよ。

ど真ん中ではなく、その周辺ですよね。わかる気がします。
では日常生活の方はいかがでしたか?

今回の留学だと、それぞれ滞在の形が違っているんですが、私の場合はホームステイさせていただきました。
ホームステイ先のホストマザーが地元で40年もお住まいの方で、周りに友達もいっぱいいて、そのままみんなでホームパーティーをしたり。日常会話ではあまり困りませんでしたね。ちゃんと同じ話題で笑えました。

たぶん、これから入学してくる高校生の皆さんにとって、そうした語学力は一番の心配だと思います。留学に必要な日常会話レベルの語学力というのは、入学してからの4年間あるいは集中研究する数か月間で養えるものだと思いますか?

いやー、どうですかね。実は私、子供の頃に少しだけ海外に住んでいたので、日常生活レベルだとそんなに大変じゃなかったんですよ。単語なんかは忘れちゃってるんですけど、発音は割と大丈夫でした。
うちの学部では留学に行くほとんどの学生が「英語コミュニケション能力開発コース」という英会話の集中講座に参加しています。いろんな国の院生とディスカッションしたりするんで、だいぶ基礎的なところは強化できると思います。だいぶ耳で理解できるようになるので現地に行ってからもだいぶ違うと思いますよ。
言葉については上手に話すのは難しくても、「伝えたい」って気持ちがあれば相手も理解しようとしてくれますから。入学してからの勉強で大丈夫だと思いますよ。

なるほど。高校生の皆さんもそれだと安心ですね。
さて、その研究分野での言葉に話を戻します。専門分野で感じた言葉の壁は、留学期間中に取り除くことができましたか?

そうですね。ある程度は突破できたと思います。やっぱりその専門の環境や言葉にどっぷり使っていると理解できるようになって行くんですよね。別に海外旅行や留学の経験がない方でも、絶対になんとかなりますね。
研究の話じゃないんですが、私が行った頃はちょうどアメリカ大統領選挙のPRまっただ中。ラボの中でも「どの候補がいい」「誰に投票する」という話をずっとしてるんですよ。はじめはまったくわからなかったんですけど、聞いているうちに「共和党というのと民主党というのがあるのね」とか何となく分かるようになりました。多分どんな分野でも同じですよ。飛び込んでしまえばこっちのもの。皆さん自然に「最近どう?」とか話しかけてくれたり、ゆっくり話してくれたりしますし。大丈夫だと思いますよ。

そんなにフレンドリーなんですか?

かなりフレンドリーですね。ホントなーんにも心配いらないと思いますよ。「飛び込んでごらんよ」って自信をもって言えますね。

では別の質問。
2か月間いろいろな体験をされたと思います。
研究分野のなかで、一番センセーショナルだった体験はどのようなものでしたか?

自分が行っていた日本のラボとの比較になるんですけど、たとえば論文抄読(ジャーナルクラブ)をするとき。
日本では自分たちが所属するラボの中だけでやるんです。「今週は○○さんやってね」といった感じで。
でも私が行ったところでは、そのフロアのラボが集まって、一気にまとまってやるんですよ。
そこのラボはすごく少人数で、大体5人くらいしかいません。だからこういうスタイルなのかもしれませんが、とにかく一箇所に集まってやるんです。院生さんはそのなかをぐるぐる回りながら抄読したり議論したりしていくんです。
たとえば私たちのところでは赤血球について話していたんですが、その中でも「他のところは、がんについてこんな話してるよ」とか「タンパク質についてこんなことをやっているよ」とか、他の分野の院生さんが考えていることについてもかなり活発に議論しているんですよ。
このスタイルでやると、そのくらい他の分野についての知識もついてきて、他の院生さんが考えていることなどもわかるようになっていきます。これはやっていて面白いと思いました。

論文抄読とは
他の研究者の学術論文を読み、研究テーマは何か、どのような研究材料と方法を用いてどのような結果を出しているか、それをどう解釈しているかを、同僚の研究者に報告すること。報告者は論文の要点を整理・報告することで研究分野への造詣を深めるとともに、論文構成などを学ぶことができる。また、報告を受ける研究者とともにデータの解釈について議論することで、自分達の研究に活かすことを探る。
ジャーナルクラブとはこうした論文抄読を取り入れて行う論文セミナーのこと。

いろんな意見が出てくる?

はい。かなり出てきますね。やっていて面白いなと思いました。自分たちのところは転写系統の話をしていたので、やっぱり転写の観点から話をするんですが、他のところではがん研究の分野からの視点で議論していたり。それで活発に議論できるんだから「おお、スゲぇ」ってなりますよね。

かっこいいですね。

ですよね。やっぱりかっこいいですよ。 それから、普通の生活面では……結構おおらかでしたね。たとえば、割と平気で信号無視しちゃう。でも、思いっきりクラクションを鳴らしつつも、車はちゃんと停まってあげるんですよ。「それはちょっとアカンやろ」と思うんですけど、ちょっと向こうの人たちの人柄が見えてほっこりしました。とにかく楽しかったです。

そうした充実の2か月を過ごす間、日本の先生とは常時連絡を取り合っていたんでしょうか。

いいえ。たぶん1~2回くらいメールで連絡したくらいですね。「元気にやってま~す」程度。

そうするともう現地に行ってからは本当にフリーでいろんな体験ができるんですね。

はい。ラボごとに違うと思うんですけど、私のラボではそういうスタイルでした。
で、留学期間が終わったら帰国して報告書を必ず書くことになっています。
論文までは行かないんですが、研究の背景と概要や目的、結果、あとは今後の展望や計画といった内容ですね。これを日本語で整理・報告していきます。
それから、これとは別に留学者の発表会がありまして、こちらは英語で7~8分程度の発表をしました。これも必ずやることになっている課題ですね。

それはこれから留学に挑戦していこうという学生に向けた発表なんですか?

そうです。1年下の後輩と入学してきたばかりの一年生が参加する発表会です。こんなことやってるんだよ、と。
後輩の皆さんや、これから東北大学医学部を目指そうという皆さんには、ぜひこの留学制度を使って外国に行ってほしいと思います。

留学に行くと「知ることができること」が必ずあります。 自分の中に新しい視点を持てるというか、知らない世界が見えるというか。そういった自分の世界が広がる体験を持つことができるのは、やっぱり良いことだと思います。
研究については、その主義や考え方というのは本当にグローバルなんだなということを感じました。
「ものの見方」をどうしていくかというだけで、結局同じ材料を使って同じ薬使って、同じように細胞を培養したりしているけれど、それをどのような観点から見ていくかによって書ける論文やその形が変わっていくということなんだと感じました。

そして何より「議論してくことの重要性」をとても強く感じました。 先程も話しましたが、向こうのラボは大体5人くらいしかいませんでしたので、みんなそれぞれ別の研究をしながら、一緒に行う研究も持っている。だから、何らかの結果が得られた際に、誰に言っても一緒に考えてもらえる。一緒に議論してくれる。これはとても良いと思いました。
議論していくと自分の頭のなかが整理されていって、自分が何をわかっていて何がわかっていないのか、次はどこにフォーカスしていけばいいのかといったことがはっきりして行くんですね。こういう環境は日本では体験したことがなかったのでとても良い経験だったと思います。こういったところはこれからの人生や進路で活かしていきたいですね。

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